【ニュース解説】一か月の倒産件数が11年ぶりに1,000件超え!理由や今後の見通しは?

東京商工リサーチの調査によると、2024年5月度の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は、件数が1,009件(前年同月比42.9%増)になることがニュースになっています。

1か月間での企業倒産件数が1,000件を超えたのは、2013年以来の11年ぶりです。

感染症での経済ショックを経ても1,000件を超えることの無かった倒産件数ですが、なぜ今増加しているのでしょうか?

この記事では、倒産企業の状況から倒産が増えている理由、今後の見通しについてなど、ニュース記事をわかりやすく解説します。

どのような企業が、どのような理由で倒産してしまっているのかを知ることで、企業の取り巻く環境や状況を把握することができ、経済全体を見渡すきっかけとなるはずです。

目次

ニュースをわかりやすく解説

東京商工リサーチが発表した、企業倒産件数についてのニュースを解説します。

2024年5月の倒産件数が1,000件超え

東京商工リサーチによると、2024年5月度の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は、件数が1,009件(前年同月比42.9%増)、負債総額は1,367億6,900万円(同50.9%減)だったことが発表されました。

倒産件数については、2022年4月から26か月間連続で前年の同月を上回る増加傾向が続いていました。

全国企業倒産状況 | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)より引用し作成

1か月で1,000件以上の会社が倒産しているなんて…

感染症による影響が大きかった2020年頃よりも倒産件数が多いことになりますね。何か理由がありそうです。

そして、倒産件数が1,000件を超えたのは2013年7月以来の10年10か月ぶりになります。

ちなみに、リーマンショックが発生した2008年9月の倒産件数は1,408件です。

2013年はリーマンショックから回復しつつある時期でしたが、2024年現在になってリーマンショックに近しい水準まで倒産件数が増加してきていることになります。

2022年から倒産件数は増加傾向にあり、10年ぶりに2024年5月に1,000件を超えた。

倒産件数の増加に対し負債総額は減少

東京商工リサーチによる、2024年5月度の全国企業倒産において、負債総額は1,367億6,900万円(同50.9%減)だった。

なんと、倒産件数は増加(前年比+40%)しているのに、負債総額は昨年同月の半分以下にまで減少していると言います。

全国企業倒産状況 | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)より引用し作成

2022年6月だけ圧倒的に負債総額が多いようです。これは、ある自動車部品製造会社の負債額が1兆2,856億円となり、この一社の影響が大きいようです

そもそも「負債総額」とは?

「負債総額」とは、倒産企業が抱えている借金の総額のことです。

倒産とは、企業の経営が行き詰まり債務の支払いができない状態を指すため、倒産企業はそれぞれ抱えている借金があるはずです。

土地や建物の取得のために借り入れが必要となる不動産業や、多額の融資・投資を行うために借り入れが必要となる金融業などは、負債総額が大きくなる傾向があると言われています。

また、大規模な投資を行う規模の大きな企業ほど、倒産した際の負債は大きくなるでしょう。

そして2024年5月には、倒産件数1,009件のうち、負債1億円未満の企業の構成比は74.8%であり、負債100億円以上の企業は4カ月ぶりに発生なしとなっています。

倒産件数は増加しているものの、企業一件当たりの負債額が少ない中小零細企業の倒産が増えていることが原因であると考えられます。

倒産件数は増えている(前年比+40%)一方、負債総額は半減している。

倒産の形態別件数は「破産」が90%超え

倒産件数1,009件のうち、倒産形態を見ると「破産」が917件となっています。

そしてこの構成比は、今年(2024年)最高の90.8%となっています。

前提として、倒産には様々な形態があることを紹介します。

倒産の形態

破産(倒産企業の約75%:清算型
破産は、会社の清算を行うことを目的とする手続きです。企業は存続せず事業活動は終了しますが、比較的簡便な手続きで行うことができ、事業継続が困難となった企業が多く選択する形態です。

民事再生(倒産企業の約15%:再建型)
民事再生は、会社の再建を図ることが目的の手続きです。事業再建の可能性が残されている企業が選択する形態で、倒産企業が再生計画を立て、債権者の同意を得た上で経営の立て直しを図ります。

会社更生(倒産企業の約1%:再建型)
会社更生は、会社更生法に基づく手続きであり、裁判所の監督下で事業再建を図る手続きです。手続きが複雑かつ厳格で、主に大企業が対象となっています。

特別清算(倒産企業の約5%:清算型)
特別清算は、会社法に基づく手続きであり、裁判所の監督下で清算を行います。破産に比べて裁判所に支払う金額が少ない等のメリットがありますが、対象が株式会社に限定されています。

倒産の形態は、大きく「清算型」と「再建型」に分類できます。

2024年5月度は、清算型に該当する「破産」を選択した倒産企業が90%となっています。

厳しい経済環境を受けて事業再建のめどが立たず、事業継続をあきらめて借金を清算するしかない企業が増えていることが伺えます。

清算型の「破産」が90%を超え、事業継続が困難な企業が増えている。

産業別の倒産件数

次に、どのような産業において倒産企業が多いのかを見てみましょう。

2024年5月の産業別件数は、2023年10月以来の7カ月ぶりに10産業すべてで前年同月を上回る増加傾向となっています。

つまり、特定の産業の倒産が増えているのではなく、あらゆる産業において倒産が増えていると言えます。

全国企業倒産状況 | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)より引用し作成

グラフを見ても、主要産業すべての倒産件数が右肩上がりで推移していることが分かります。

最も倒産件数が多いのは「サービス業」(月次倒産に占める構成比32.4%)ですね。

常に倒産件数が最多の産業ではありますが、特に近年は、21カ月連続で前年同月を上回っており、2024年5月に初めて300件台に到達しています。

サービス業の他にも建設業をはじめ倒産件数は増加傾向にあり、産業を問わず厳しい経済環境が続いていると言えるでしょう。

サービス業をはじめ、主要産業すべてで倒産企業が増加傾向にある。

地域別の倒産件数

次に、地域ごとの倒産件数を見てみましょう。

2024年5月の地区別件数は、2023年8月以来、9カ月ぶりに9地区すべてで前年同月を上回ったと発表されています。

日本全国、すべての地域で倒産件数が増加している傾向があります。

以下、各都道府県と地域別の倒産件数と負債総額を見てみましょう。

全国企業倒産状況 | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)より引用し作成

やはり、企業の母数が多いと考えられる関東圏355件(前年同月比28.1%増)や近畿圏256件(前年同月比47.1%増)の倒産件数が多いようです。

しかし、東北64件(同100.0%増)や九州91件(同59.6%増)など、1年前と比較して大幅に倒産件数が増えている地域があることにも注目したいところです。

地域倒産件数前年同月比
北海道30+50%
東北64+100%
関東355+28.1%
中部124+42.5%
北陸18+80%
近畿256+47.1%
中国52+48.5%
四国19+35.7%
九州91+59.6%
全国企業倒産状況 | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)より引用し作成

とにかく、厳しい経済環境を受けて、特定の地域に限らず、全国的に倒産件数も増加していると言えるでしょう。

関東圏のみならず、全国地域で倒産件数が増加している。

規模別は中小企業が100%

そして最後に、2024年5月の企業倒産1,004件は、すべて中小企業の倒産となっています。

前提として、中小企業基本法に基づく「中小企業の定義」を紹介します。

業種資本金従業員数
製造業、建設業、運輸業3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
中小企業・小規模企業者の定義 | 中小企業庁 (meti.go.jp)より引用し作成

中小企業基本法では、それぞれの業種において、中小企業とする「資本金」と「従業員数」を定めています。

「資本金」と「従業員数」について、どちらか片方でも基準を満たせば、その企業は中小企業ということになります。

日本企業の99.7%は中小企業に該当します。大企業はその事業の大きさから存在感が大きいですが、割合で見ると非常に少数です。

2024年5月に発生した計1,009件の倒産は、すべてこの定義を満たした中小企業です。

大企業に比べ、お金や人材などの経営資源に乏しい中小企業は、変化する経済環境に適応することは非常に難しいでしょう。

中小企業が経営の継続を断念せざるを得ない、経済環境の変化に注目する必要があるでしょう。

2024年5月に倒産した企業は、そのすべてが中小企業である。

倒産件数が増加している理由

ニュース記事を見ると、全国的に中小企業の倒産が増加していることが分かりました。

ここでは、なぜ倒産が増加しているのか、考えられる要因を検討します。

コロナ関連支援策の終了

政府は、コロナ禍が深刻化する中で、経営困難となった企業に対して様々な支援策を講じてきました。

そして、コロナ関連支援策が終了することで多くの企業が倒産に追い込まれていることが考えられます。

コロナ関連支援策(支援金)の例
持続化給付金 / 雇用調整助成金 / 家賃支援給付金 / 事業復活支援金 など

様々な支援策が実施されてきましたが、これらの支援策は2024年3月をもってすべて終了しました。

今まで、倒産の危機にありながらも支援策のおかげて経営を継続できていた企業も多いでしょう。

このコロナ関連支援策の終了が、企業の倒産件数増加の理由であることは間違いないでしょう。

円安などのよる物価の高騰

円安などの影響を受けて物価が高騰していることも、企業の経営においては厳しい環境となります。

近年は、日本銀行が低金利政策を継続していることや、アメリカなどに比べて経済成長が鈍化していることを受けて、「円を売ってドルを買う」人が増え、円の価値が下がって「円安」が続いています。

そして円安が続くと、海外から輸入する商品や原材料の価格が相対的に高くなります。

2020年代は100円/1ドルくらいでした。今まで100円で輸入できたものが、円の価値が下がったことで150円払わないと輸入できない状況になっています。

他にも、社会情勢を受けて世界的にエネルギーコストは上昇しています。

このような状況になると、企業は原材料の仕入れや設備の稼働に大きなコストを払わなければなりません。

特に、経営資源が限られている中小企業にとっては、この物価高に対応することは非常に難しいでしょう。

円安などの影響を受けて物価が高騰していることも、企業が経営を継続することを難しくしいている原因のひとつと言えるでしょう。

人手不足による最低賃金の上昇

日本で最低賃金が上昇し企業の人件費の支払いが増加していることも、企業の経営を圧迫している原因のひとつです。

日本では少子高齢化が進み「生産年齢人口」と呼ばれる、15歳から60歳までの働くことのできる人口が減少しています。

そもそも働くことのできる人口が減っているため、賃金を高くしておかないと人手が集まらないわけです。

さらに政府は、物価高騰でデフレが続く中で景気をよくするために、消費者の所得を増やして消費を増やす、つまりお金をたくさん使って経済を回してほしいと考えます。

食品とか水道代・電気代とか、色々なものの値段が上がりすぎて、賃金が上がってくれないと生活すら厳しいもんね…

このような背景を受けて、令和5年10月に、日本の最低賃金は全国的に引き上げられました。

地域別最低賃金の全国一覧 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

上記の表は関東圏のみを罰すしていますが、日本全国で約4%以上の引き上げが行われています。

最低賃金が向上することは、私たち消費者からすればありがたいことです。

しかし企業からすれば、同じ労働力を確保するためにより多くの人件費を払わなければならないことになります

最低賃金の上昇が、そもそも人件費にお金をかけにくい中小企業の資金繰りを圧迫し、倒産の原因となっていると考えられます。

倒産件数が増加している理由
  • コロナ関連支援策が3月に終了し、資金繰りができなくなった。
  • 円安などによる物価高騰で、支払いコストに耐えられなくなった。
  • 最低賃金の上昇で人件費の支払いが増えてしまった。

倒産件数の今後の見通し

最後に、企業の倒産件数が今後どのように推移するのかを検討してみます。

結論、悲観的ですが、今後の企業の倒産が増加する傾向が続くかもしれないと考えられます。

支援金関連の見通し

結論、「ゼロぜロ融資」も返済が本格化しさらに資金繰りが厳しくなると考えられています。

「ゼロぜロ融資」とは
コロナ禍で売り上げが減少した個人事業主や中小企業に対し、政府が実質無利子・無担保で融資を行う制度のことです。無利子・無担保とはいえ、借入を行った分は返済しなければなりません。

ゼロぜロ融資の返済は、2024年4月から本格的に開始しています。

しかし、借入を行ったものの事業の売上水準を立て直すことができず、返済期日を迎えてしまい返済が滞ってしまうという事態も少なくないようです。

そこで政府は、資金繰り対策として、以下の支援策を延長することを発表しています。

民間ゼロゼロ融資の返済開始の最後のピーク(2024年4月)の資金繰りに万全を期すため、コロナ資金繰り支援(コロナセーフティネット保証4号・コロナ借換保証・日本公庫等のコロナ特別貸付・コロナ資本性劣後ローン)を本年6月末まで延長します。

再生支援の総合的対策を策定しました (METI/経済産業省)

しかし多くの中小企業はコロナ禍でのショックに加え、現在の厳しい外部環境に置かれています。

コロナ禍を乗り切る支援策が終了し、さらにその借り入れの返済が本格化する今後は、返済のための資金繰りに追われてしまう企業が出てきてしまうかもしれないのです。

物価の見通し

結論、物価の高騰は今後も継続すると考えられています。

日銀が2024年4月に発表している、「経済・物価情勢の展望」では、消費者物価は2025年・2026年も同様に2%程度で推移すると言います。

消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2024年度に2%台後半となったあと、2025年度および2026年度は、概ね2%程度で推移すると予想される。既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、2025年度にかけては、このところの原油価格上昇の影響や政府による経済対策の反動が前年比を押し上げる方向に作用すると考えられる。

gor2404a.pdf (boj.or.jp) 日本銀行 「経済・物価情勢の展望」(2024年4月)

この日銀の展望によれば、「輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響=円安による輸入価格増加が、消費者が購入する価格に反映されて物価が上がる」ことは減衰すると見ています。

一方、原油をはじめとするエネルギーコストの上昇が継続することや、政府が実施してきた「ガソリン・電気・ガス代の負担緩和策」が終了することによる反動の結果、物価は約2%程度で上昇すると考えられています。

いずれにせよ、企業を取り巻くコスト高は継続することは変わらず、物価高騰を価格に転嫁する策が求められる環境が続くと言えます。

まとめ

当記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、東京商工リサーチが発表する「2024年5月の企業倒産件数」について、倒産企業の詳細や、企業の倒産が増加している理由、今後の見通しなどを解説しました。

記事でもお話ししました通り、企業を取り巻く外部環境が変化する中で企業向けの支援策が終了したことが、企業の倒産が増加している理由であると考えられます。

このような環境下で、企業は物価高騰を価格に転嫁する施策や、生産性を重視した経営を行うなど、厳しい経済環境の中で生き延びる術を模索しなければなりません。

企業の倒産件数などのデータは毎月公開されていますので、気になる方はチェックしてみると、改めて経済環境を把握する機会になるかと思います。

他にも中小企業や経営に関するニュース解説を投稿しておりますので、併せてお読みいただけますと幸いです!

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