Z世代を中心に日本で広がる「静かな退職」とは?新たな働き方を選ぶ若者の仕事観

「静かな退職」という言葉をご存じでしょうか?

「静かな退職」とは、出世やキャリアアップを目指さずに最低限の業務だけを行う働き方を指します。

働き方が多様化し、プライベートの充実を重視する価値観が広がることで、Z世代と呼ばれる若者を中心に「静かな退職」を選ぶ人が増えています。

この記事では、「静かな退職」について、言葉の意味から増加の原因、企業や社会に及ぼす影響について解説します。

「静かな退職」は、近年の仕事観の変化を表すトレンドワードです。ぜひチェックしておいてくださいね。

この記事でわかること
  • そもそも「静かな退職」とは
  • 「静かな退職」が増加している理由
  • 「静かな退職」が増加することによる企業・社会への影響
  • 「静かな退職」との向き合い方
目次

「静かな退職」とは?

まず初めに、「静かな退職」とは何かを解説いたします。

「静かな退職」とは

「静かな退職」とは、仕事に対して熱意・やる気を持たず、最低限の業務だけを行う働き方を指します。

実際に会社を退職するわけではありませんが、出世・キャリアアップを目指すことなく、必要以上の責任を負わない働き方です。

仕事とプライベートを明確に区別し、趣味や家族と過ごす時間を大切にするような働き方をしている方が、「静かな退職」の状態にあると言えるでしょう。

実際に、このような働き方を選ぶ方が増えている印象がありますね。

特に「Z世代」と呼ばれる若者世代にはこの傾向が強く見られ、最近は多くの新入社員の働き方の特徴として「静かな退職」という言葉が広がっています。

「Z世代」って?
Z世代とは、1990年代中期から2000年代初頭に生まれた世代を指します。

近年の新入社員やこれから社会進出を果たす世代が該当します。

生まれた時からスマホやパソコンなどのデジタル環境にあり、成長過程で様々な経済ショックを経験しています。


このような背景を受けて、今までとは異なる独自の価値観を持つ世代であると言われています。

静かなる退職が広まったきっかけ

「静かな退職」という言葉が広まったきっかけは、アメリカのキャリアコーチ「ブライアン・クリーリー氏」が2022年に投稿したティックトックの投稿だといわれています。

この投稿内容は、上昇志向をもって仕事に全力を注ぐべきと考える「ハッスルカルチャー」に対して警鐘を鳴らすものであり、「仕事は人生ではない」というメッセージにZ世代を中心とした若者たちの共感を得て、アメリカでバズった発信が日本でも注目されはじめています。

「ハッスルカルチャー」とは?
ハッスルカルチャーとは、仕事を人生における最重要事項と考え、仕事に全力で取り組むことを推奨する文化のことです。

日本では、仕事中毒者・ワーカホリックが近しい意味合いでしょう。

特に日本では、一昔前には仕事には全力で向き合うべきだと考える文化が主流でしたが、近年の働き方の変化を受けてのギャップが生じ始めている考え方です。

ハッスルカルチャーは、Z世代よりも上の世代に該当するミレニアム世代の時代に主流だった仕事観です。

仕事への価値観が変化した若い世代はハッスルカルチャーに疑問を抱き、これに反対する主張である「静かな退職」への共感を強く引き起こしました。

静かなる退職を選ぶ人の割合は?

世界各国の労働者を対象にアメリカの調査会社(ギャラップ社)が行った『2023 State of the Global Workplace』によれば、世界全体の労働者の約60%は「静かな退職」に状態にあるとされています。

Employee engagement reflects the involvement and enthusiasm of employees in their work and workplace. Gallup has found that engaged business teams drive positive outcomes within organizations. Gallup estimates that low engagement costs the global economy US$8.9 trillion, or 9% of global GDP.

23% Engaged / 62% Not Engaged / 15% Actively Disengaged

訳:従業員のエンゲージメントは、従業員が仕事や職場に対して持つ関心や熱意を反映しています。ギャラップ社は、仕事に熱意を持って従事するビジネスチームが組織内でポジティブな結果をもたらすことを発見しました。ギャラップ社は、従業員のエンゲージメントが低いことにより、世界経済に8兆9,000億ドル、つまり世界GDPの9%に相当する損失を与えていると推定しています。
23% 熱意がある / 62% 熱意が無い / 15% 積極的な離脱(退職)

State of the Global Workplace Report – Gallup

ギャラップ社は、会社に残りながらエンゲージメントが低い従業員である「静かな退職」が広がることで、世界経済に大きな損失をもたらしていると問題視しています。

実際に、仕事に本気で熱意を持って取り組んでいる人はそこまで多くないと納得できる面はありますし、自分が本気で会社に貢献したいと思っているかも疑わしいところです。

仕事だけでなくプライベートを大切にする「静かな退職」は、ひとつの仕事観として認められるべきでしょう。

しかし「静かな退職」が広がることで、世界経済や企業の競争力低下が引き起こされることには注意しておく必要がありそうです。

静かな退職が増加している理由

世界の労働者の60%以上が「静かな退職」状態にあり、労働者の大半を占めるまでに増加しています。

ここでは、なぜ「静かな退職」を選ぶ人が増加しているのか、その理由を考察します。

ライフワークバランスの重視

近年は、「ライフワークバランス」という言葉もよく耳にするようになりましたね。

ライフワークバランスという言葉が広まった背景には、テレワークや働き方改革が進み、自由度の高い働き方が登場したことがあると考えられています。

従業員の働き方・生活が変化することでプライベートを充実させる生活への関心が高まっているのです。

Job総研による『2023年 ワークライフ実態調査』を実施 理想はプライベート重視7割 実際は仕事に偏りギャップ顕著 | パーソルキャリア株式会社のプレスリリース (prtimes.jp)より引用し作成

上記は、Job総研による「理想のライフワークバランス」についてのアンケート結果です。

「静かな退職」の状態にある労働者の割合と同様に、過半数の回答者が「プライベート重視」であることが分かります。

そして、「静かな退職」は、ライフワークバランスの中でも「ライフ」に重きを置く働き方です。

ワークライフバランスを重視し、仕事だけではなく、趣味や育児・家庭への十分な時間を割くことが人生を充実させるための手段だと考える人が増えています。

ハッスルカルチャーへの疑問

現代の仕事観とハッスルカルチャーとのギャップが大きいことも、「静かな退職」が増加する理由とも考えられます。

上述した通り、Z世代よりも上の世代であるミレニアム世代は、「ハッスルカルチャー」と呼ばれる、バリバリ仕事をすることを肯定する時代に生きてきました。

しかしZ世代は、「終身雇用は終わった」や「経済ショックはいつ起きてもおかしくない」という認識を持った世代です。

このような価値観を持つZ世代が、ひとつの仕事だけに注力する「ハッスルカルチャー」に対して疑問を持つことは当然かもしれません。

さらに働き方改革や副業が推進される中、ひとつの仕事だけに注力することに否定的な方もいるでしょう。

いわば、ひとつの会社でバリバリ仕事をこなすハッスルカルチャーへの反発ともいえます。

仕事中心のハッスルカルチャーへの疑問・反発が生じ始め、プライベートを充実させる「静かな退職」を選択する人が増えていると考えられます。

組織に依存しないキャリア形成

近年は、キャリア形成の方向性も大きく変化したとも言われています。

具体的には、「転職前提の就職」や「副業への注目」が挙げられるでしょう。

特にZ世代は、成長過程で数々の経済ショックを経験したことで、将来何が起こってもおかしくないと、潜在的に将来への不安を抱える世代です。

そのためZ世代は、将来の不安に備えて早い段階で自分の市場価値を高めることを望む傾向があります。

(2) 転職に対する考え方
転職に対する考え方を日本の若者に聞いたところ、「職場に強い不満があれば、転職することもやむをえない」(26.4%)と答えた割合が最も高く、次いで「できるだけ転職せずに同じ職場で働きたい」(23.6%)、「職場に不満があれば、転職する方がよい」(22.8%)となっている。「つらくても転職せず、一生一つの職場で働き続けるべきである」と答えた割合は4.4%である。

s2-4.pdf (ndl.go.jp) 内閣府「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 (平成30年度)第2部 調査の結果(Q45)

上記は、内閣府が発表している「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によれば、転職に対して肯定的な回答をした若者が50%近くを占めていることがわかります。

実際に、Z世代である私たちは就職活動の際には転職前提で企業選びを進めていました。

Z世代は、いつ自分の属する会社の業績が悪くなってもおかしくないし、だからこそ個人で生き抜く力が求められていと考える傾向があります。

だからこそ、特定の企業・業界だけで生かすことのできるスキルに価値を感じにくく、1つの仕事に注力せず業務時間外での自己研鑽や副業を積極的に行います。

組織に依存せずに自分の市場価値を高めることを望む価値観が、「静かな退職」が増加している理由のひとつと言えます。

燃え尽きや期待とのギャップ

「静かなる退職」を選ぶ労働者は、実はZ世代だけではありません。

ハッスルカルチャーが主流だった時代に高いモチベーションを持っていたミレニアム世代でも、静かなる退職を選ぶ人が増えています。

この背景には、仕事の全力で取り組んだ結果としての「燃え尽き」や「期待とのギャップ」があると考えられます。

どんなに仕事に全力で取り組んできても、うまく結果を残せず出世競争に敗れてしまった方もいるでしょう。

さらに近年は、AIの台頭や物価高騰などの社会情勢を受けて、早期退職優遇制度や役職定年などの人件費削減・社内活性化施策を採る企業が増えています。

このように、仕事に熱意を持って取り組んできた結果が、想像していた理想のキャリアとのギャップを感じた時、仕事への熱意が失われることも考えられます。

また、ハッスルカルチャーが当たり前だと考えていた方でも、プライベート重視の働き方が増えることで育児や趣味に没頭することの魅力に改めて気づく方もいるでしょう。

社会環境の変化の中で、燃え尽きやギャップを感じたミレニアム世代の「静かな退職」も増えています。

静かな退職が増加している理由
  • ライフワークバランスを重視する傾向
  • 若い世代のハッスルカルチャーへの疑問
  • 組織に依存しないキャリア形成の拡大
  • 燃え尽きや期待とのギャップ

「静かな退職」が企業や社会にもたらす影響

ここまで、「静かな退職」の概要と増加の理由を解説しました。

「静かな退職」が増加すると、企業や社会にどのような影響を及ぼすのかを考察します。

良い影響・メリット

まずは「静かな退職」の増加がもたらす良い影響・メリットです。

仕事観に合わせた働き方を選択できる

「静かな退職」が増加することは、仕事観に合わせた働き方を選択しやすくなります。

一昔前までは、仕事に対して熱意を持って取り組むことは当然であり、ライフワークバランスという言葉すら近年やっと浸透した新しい考え方です。

しかし近年では、人生を充実させるための手段として、個人の仕事観に合わせてキャリアを選ぶことが重要だと考えられています。

プライベートを充実させたい方は、「静かな退職」で趣味や家族との時間を生み出して充実したプライベートを過ごすことができます。

仕事に熱意をもって取り組みたい方は、全力で仕事に向き合う働き方を選択すればいいわけです。

このように、仕事観に合わせて働き方を選択できることは、仕事に囚われない人生の充実・幸福につながるメリットです。

柔軟な労務環境の整備

「静かな退職」が増加することで、柔軟な労働な環境を整備することが推進されることもメリットです。

上述しました通り、世界の労働者の約60%が静かな退職の状態にあると言われています。

この「静かな退職」の増加を受けて、多様な働き方が認められるべきであるという風潮が強まりつつあります。

そしてこの風潮は、企業が「働き方改革」をはじめとする労務環境の整備を進めるきっかけとなっています。

「働き方改革」の目指すもの
我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

「働き方改革」の実現に向けて |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

企業にとって人材は重要な経営資源であり、従業員が働きやすく能力を発揮できる労務環境を整備することは重要な課題です。

「静かな退職」を望む労働者が増え、これから社会進出を果たすZ世代を迎え入れるためにも、企業は労働環境の整備を進めることが急務となっています。

「静かな退職」の増加が労務環境を整備するきっかけとなり、仕事観に合わせた働き方ができるようになることもメリットであると言えるでしょう。

悪い影響・デメリット

つづいて、「静かな退職」の増加が及ぼす悪い影響・デメリットについてお話しします。

企業の生産性が低下する

企業にとっては「静かな退職」を選んだ社員が多いほど生産性が低下します。

「静かな退職」を選んだ従業員は、仕事については最低限のタスクをこなすことに徹します。

そのため、自ら能動的に仕事を取ることや、イノベーションを推進することはないでしょう。

このように、必要以上の成果にこだわらない「静かな退職」の働き方では、組織が付加価値を生み出すことは難しいです。

同じ人数の従業員を雇っても、その従業員のモチベーションや仕事観によって生産性は大きく変化します。

「静かな退職」の増加は、業務に対して熱意にかける従業員が増えることで企業の生産性・競争力が落ちるリスクに繋がる点がデメリットとなるでしょう。

職場の雰囲気の改善・人材育成が難しくなる

「静かな退職」を行う社員の存在により、職場の雰囲気の改善・人材育成が難しくなります。

企業としては、全従業員が仕事に前向きであり、良好な人間関係のもとで働けていることが理想でしょう。

しかし、この理想は「静かな退職」状態の従業員が増えることで実現が難しくなります。

例えば、「静かな退職」状態にある社員に対して、熱意をもって仕事と向き合っている社員はその価値観を理解できないかもしれません。

また、「静かな退職」を選択する社員は向上心に欠けるため、企業にとっては育成が難しい人材となるでしょう。

「静かな退職」状態の社員の存在が、組織の雰囲気を悪くしたり、人材投資の浪費を生み出す可能性があるわけです。

このように、「静かな退職」の状態にある社員が増えることで、企業が人材面の管理・育成を行うことが難しくなることもデメリットとして挙げられます。

長期的には従業員の満足度も低下する

静かな退職の状態にある社員は、プライベートの充実による満足度が享受できることでしょう。

しかし、静かな退職の状態が長期的に続くと、結果として従業員の満足度は低下すると言われています。

なぜなら、「静かな退職」状態でも人生の大半は仕事が占めるからです。

「仕事は人生の約3分の1を占める」などと言われるように、人生では仕事に大半の時間を割くことになります。

つまり「静かな退職」状態にあっても、向上意欲・モチベーションが無い中で長い時間・労力を割なかければならないのです。

出世・責任などのプレッシャーは無いとはいえ、キャリア・経済的な将来への不安と向き合わなければなりません。

「静かな退職」状態にあり、いくらプライベートが充実していたとしても、長期的に見ると満足度が低下する恐れがあるでしょう。

良い影響・メリット
  • 仕事観に合わせた働き方を選択できる
  • 柔軟な労務環境が整備されるきっかけになる
悪い影響・デメリット
  • 企業の生産性が低下する
  • 職場の雰囲気の改善・人材育成が難しくなる
  • 長期的には従業員の満足度も低下する

「静かな退職」との適切な向き合い方

最後に、「静かな退職」との適切な向き合い方を考えてみましょう。

静かな退職は決して「怠け者」ではない

静かな退職と聞くと、仕事にやる気のない怠け者のように聞こえるかもしれません。

しかし、仕事に熱意をもって取り組むことが美徳である時代が終わりつつある今、「静かな退職」は人生を充実させるための働き方の1つである点を認識しておくことが重要です。

「仕事とは本気で向き合うべき」と決めつけるのではなく、多様な仕事観・働き方を受容する姿勢が求められています。

従業員の価値観を理解した人事施策が必要

「静かな退職」は働き方の一つであり、決して卑下されるべきものではありません。

しかし、企業にとっては「静かな退職」状態の従業員が増加すれば生産性が低下する恐れがあるため、対策を講じる必要があることは否めません。

この時、「従業員の仕事観」と「従業員の仕事観」の両方を加味した施策を講じることが必要です。

たとえば、「静かな退職」状態の社員が業務範囲内で成果を創出できるような仕事の割り当てや、プライベートを充実させるための福利厚生で帰属意識を高めるなどが挙げられます。

従業員の仕事観に寄り添いながら、仕事へのやりがいを創出して企業の生産性低下を防ぐことを目指しましょう。

まとめ

当記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回は、新しい仕事観として広まる「静かな退職」について、その意味や広まっている理由、社会・企業への影響などを解説しました。

記事でもお話しした通り、「静かな退職」はZ世代をはじめとする若い世代を中心に広まっており、企業・社会への影響力も大きくなっています。

静かな退職の状態にある方には「仕事に怠惰な人」というイメージがあるかもしれません。

しかし、仕事観の変化の中で登場した働き方のひとつであり、人生を充実させるための手段であることを知っておくことが大切です。

今後Z世代が社会進出を果たし、「静かな退職」がより主流の働き方となるとき、企業や社会が上手に向き合うことが求められています。

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