【企業経営理論】図解で理解!BCPとクライシスマネジメントの違い

中小企業診断士の一次試験科目「企業経営理論」に「BCP(事業継続計画)」が登場します。

そして、おそらく企業経営理論の勉強を進めている方なら、「BCPとクライシスマネジメントの違いが分かりにくくて区別ができない!」と、一度手を止めてしまっているのではないでしょうか?

この記事では、2023年度の中小企業診断士試験を受験し、独学1年で502点(企業経営理論は79点)で合格できた私が、「BCP(事業継続計画)」について、クライシスマネジメントの違いや過去の出題を解説しています。

BCP(事業継続計画)は、中小企業白書にもその策定状況が取り上げられています。中小企業の経営において重要視されているため、BCPが企業経営理論で出題される可能性は十分あり得るでしょう。

「~計画」や「~プラン」はいくつか出てきてややこしいですよね。この記事を見ればしっかり区別できるように解説しますので、本番でBCPやクライシスマネジメントが出れば得点源にしちゃいましょう。

この記事でわかること
  • そもそも「BCP(事業継続計画)」とは
  • BCPと似ている「クライシスマネジメント」とは
  • BCPとクライシスマネジメントの違い
  • 一次試験での出題例と解答解説
目次

BCP(事業継続計画)とは

まず初めに、「BCP(事業継続計画)」について解説します。

BCP(事業継続計画)とは

BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、企業が災害やテロ、感染症などの緊急事態に遭遇した時に、事業に対する損害を最小限に抑えつつ、核となる事業を継続もしくは早期復旧できる状態にすることを目的に、あらかじめの対応策や方針・手順を取り決めておく計画のことです。

日本は地震をはじめとした災害が多い国として知られていますし、感染症の流行によって経済環境が大きく変化することも考えられます。そのため、中小企業が災害に備えるためのBCPを策定し、事業を継続できる状態を事前に整備しておくことが重要です。

BCPの策定状況

BCPを策定することの重要性は、中小企業庁が毎年発表している「中小企業白書」の中でも取り上げられています。

例えば、中小企業におけるBCPの策定状況を見てみると、BCPを策定している中小企業は微増傾向にあるものの、いまだに多くの企業は策定していないことが分かります。中小企業白書では「半数以下」と表現されていました。

2022年版「中小企業白書」全文(中小企業庁)03Hakusyo_part1_chap1_web.pdf (meti.go.jp)を元に作成

中小企業白書のデータは、一次試験では「中小企業経営・政策」でそのまま出題される可能性があります。BCPを策定している企業が半数以下であることはこれを機に覚えてしまいましょう!

BCPを策定するメリット

BCPを策定することは、緊急事態にも事業が継続・復旧できることで、企業が生き残るための競争力を維持できることに繋がります。逆に、BCPが策定されていないと、災害などが発生したときに緊急で対策を検討しなければならなくなり、とりあえずの対策がうまくいかずにそのまま復旧できないなんてこともあるでしょう。

この他にも、BCPを策定することには様々な効果があることも覚えてしまいましょう。中小企業白書に登場している「BCPを策定したことによる効果」についての調査を見てみると、「従業員のリスクに対する意識が向上した」という回答が圧倒的に多いようです。

2022年版「中小企業白書」全文(中小企業庁)03Hakusyo_part1_chap1_web.pdf (meti.go.jp)を元に作成

BCPを策定するメリットの中でも、「従業員のリスクに対する意識が向上した」という回答が50%を超えていることも中小企業経営・政策の対策として覚える価値ありです!

このように、BCP(事業継続計画)は、予想できない緊急事態に対して、事業を継続し競争力を維持するために必要な計画であり、策定することで従業員のリスクへの意識が向上し、「リスクに強い企業」として

BCP(事業継続計画)
  • BCP(事業継続計画)とは、緊急事態に損害を最小限に抑え、事業を継続・復旧するために立てておく計画
  • BCPを策定している企業は増えつつあるが少ない(半数以下)
  • BCPを策定することで、従業員のリスクへの意識が向上するなどのメリットも得られる

クライシスマネジメント(危機管理)とは

次に「クライシスマネジメント」について説明します。BCPと似た考え方で紛らわしいですが、まずはクライシスマネジメントが何を意味するのかをしっかり理解しましょう。

クライシスマネジメント(危機管理)とは

「クライシスマネジメント(危機管理)」は、緊急事態(クライシス)が発生した後に、迅速に適切な対処を行う初期対応のことを指します。また、クライシスが発生した後に二次被害を防ぐための計画を立てることも含まれます。

BCPを策定し、緊急事態に備えて対策をしていても、想定していなかった事態は発生すれば計画通りに対応することは難しくなります。そんな時に、状況に合わせた最適な初期対応を行うことがリスクマネジメントです。

クライシスマネジメントは、クライシス(緊急事態)が発生してしまった後の話です。時系列ではっきり区別すると覚えやすいです。

クライシスマネジメント(危機管理)のメリット

クライシスマネジメント(危機管理)を行うことで、BCPなどの計画でも想定していなかった事態にも適切に対応できるため、より緊急事態に被害を少なくすることができます。

他にも、クライシスマネジメントをしっかりと行い、緊急事態に適切に対応できる能力があることは、取引先からの信頼が高まり企業価値の向上に繋がったり、危機が発生すると不安定になりやすい従業員のメンタルケアが従業員満足の向上にもつながります。

緊急事態が発生したら取引が停止してしまったり、従業員の生活や心身を守り力が無ければ、取引先も従業員も企業を信頼することができませんよね。クライシスマネジメントにも、事業の継続以上に様々な効果があるんです。

クライシスマネジメント(危機管理)
  • クライシスマネジメント(危機管理)は、緊急事態が発生した後に最適な対処を行い損害を最小化すること
  • クライシスマネジメントには、事業の継続はもちろん、企業価値や従業員満足の向上などのメリットがある

BCP(事業継続計画)とクライシスマネジメントの違い

ここでは、BCP(事業継続計画)とクライシスマネジメント(危機管理)の違いについて解説します。それぞれがいつ行われ、何を対象にしているのかに注意しながら、図解でわかりやすく説明します。

図解でイメージをつかむ

企業が緊急事態に対処するために行うマネジメント・計画を図解すると以下のようになります。

まず、企業が緊急事態のリスクに対応することを包括的に「リスクマネジメント(リスク管理)」と言います。リスクマネジメントには、企業のリスクに対するアプローチがすべて含まれるため、BCPやクライシスマネジメントはリスクマネジメントの一環ということになります。

そして、リスクマネジメントでは、経営資源それぞれについてのマネジメントをおこないます。その中でも「事業を継続すること」を目的に対応策や方向性を計画することが「BCP(事業継続計画)」です。

一方、リスクマネジメントの中でも実際に緊急事態は発生した後に、事前に計画していた対策を考慮しながら最適な初期対応(事後対応)を行うことが「クライシスマネジメント」に該当します。

図解するとそれぞれがどのタイミングで、何を目的に行われているかを整理できます。この図を頭に入れて、出題されているフレーズが何を意味しているのかを試験で判断できるようにインプットしましょう!

違い①:対象範囲

上記の図解を見ればわかる通り、BCPとクライシスマネジメントの違いの1つ目は「対象範囲」です。

BCPを策定する目的は、「緊急事態が発生しても事業を継続・復旧できる状態に準備しておくこと」です。そのため、BCPの策定対象となるのはあくまで「事業の継続」に特化した部分になります。

一方リスクマネジメントの目的は、「発生した緊急事態に最適な対応をすること」です。そのため、事業の継続だけでなく、企業・組織における幅広い要素が対象になります。

一次試験の正誤問題を作成する側に視点に立てば、異なる対象範囲をごちゃごちゃにする問題は、問題として確実に間違っているし簡単に作りやすいでしょう。それぞれが対象としている範囲の違いは押さえておきたいですね!

違い②:時系列

BCPとクライシスマネジメントの2つ目の違いは、「時系列」です。

図を見ればわかる通り、BCPは「緊急事態が発生する前に立てておく対応の手段や方法の計画」です。一方、クライシスマネジメントは、「緊急事態が発生した後に最適な初期対応を行うこと」です。

このように、BCPは緊急事態の前、クライシスマネジメントは緊急事態の後に考えるものである点で明確に異なっています。

BCPで立てる計画はあくまで「想定される緊急事態」に対応するものですが、クライシスマネジメントは「実際に起こった緊急事態」に対応していくものです。

BCP(事業継続計画)とクライシスマネジメント(危機管理)の違い
  • 「BCP」と「クライシスマネジメント」はどちらも「リスクマネジメント」の一環である
  • BCPの対象範囲は「事業の継続」だが、クライシスマネジメントの対象は企業に関する幅広い要素が含まれる
  • BCPは緊急事態が発生する前に立てる計画だが、クライシスマネジメントは発生した後に最適な対応を目指す

一次試験の出題例

BCPやクライシスマネジメントに関する過去の出題を解説します。

平成29年度 第12問

自然災害や大事故などの突発的な不測の事態の発生に対応することは、企業にとって戦略的な経営課題であり、停滞のない企業活動の継続は企業の社会的責任の一環をなしている。そのような事態への対応に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア:カフェテリア・プランは、多くの場合、ポイント制によって福利厚生メニューを自主的に、また公平に選択できるようにしているので、突発的な災害などの支援に活用できるメニューは盛り込めない。

イ:クライシス・マネジメントは、想定される危機的事象を予測し、事前にその発生抑止や防止策を検討して危機への対応を図ろうとするものである。

ウ:コンティンジェンシー・プランでは、不測の事態や最悪の事態を想定して、その事態が与える業務間の影響を測るべく、事業インパクト分析を重視して危機対応の計画を策定するのが一般的な方法である。

エ:事業継続計画(BCP)では、事業停止の影響度を評価分析して、業務の中断が許される許容期限を把握して業務の復旧優先順位を導くために事業インパクト分析の実施が行われる。

オ:事業継続計画(BCP)は、災害時のロジスティクスの確保を重視した企業間ネットワークの構築を目指すものとして策定されている。

↓答えを決めてからスクロールして解答をチェック!↓

解答解説

ア:適切ではない
カフェテリア・プランは、多くの場合、ポイント制によって福利厚生メニューを自主的に、また公平に選択できるようにしているので、突発的な災害などの支援に活用できるメニューは盛り込めない。

➤➤「カフェテリアプラン」とは、企業の福利厚生制度のひとつで、従業員にポイントを付与し、そのポイントを使って受けたい福利厚生サービスを選べる制度です。企業は業種・業態に合わせてカフェテリアプランに組み込む福利厚生サービスを選択することができ、このメニューの中には災害支援に活用できるものも含まれています

イ:適切ではない
クライシス・マネジメントは、想定される危機的事象を予測し、事前にその発生抑止や防止策を検討して危機への対応を図ろうとするものである。

➤➤クライシスマネジメントは、緊急事態が発生した後に最適な初期対応を行うことです。そのため、事前に予測して対応を図ろうとするものではありません

ウ:適切ではない
コンティンジェンシー・プランでは、不測の事態や最悪の事態を想定して、その事態が与える業務間の影響を測るべく、事業インパクト分析を重視して危機対応の計画を策定するのが一般的な方法である。

➤➤コンティンジェンシー・プランは、非常にBCPに似ているもので、緊急事態に事業の継続・復旧ができるように事前に立てておく計画です。この点ではBCPと同じですが、「事業インパクト分析(BIA)」を行うか否かという点で異なっています。「事業インパクト分析(BIA)」とは、ある業務を停止したらどのような影響が出るのかを分析し、停止業務と継続業務に分類することです。一般的に、BCPは事業インパクト分析を重視して計画を策定しますが、コンティンジェンシー・プランは事業インパクト分析を行わずにプランを立てていきます

エ:適切である
事業継続計画(BCP)では、事業停止の影響度を評価分析して、業務の中断が許される許容期限を把握して業務の復旧優先順位を導くために事業インパクト分析の実施が行われる。

➤➤選択肢ウと同様です。BCPでは事業インパクト分析を行った上で計画を策定します。

オ:適切ではない
事業継続計画(BCP)は、災害時のロジスティクスの確保を重視した企業間ネットワークの構築を目指すものとして策定されている。

➤➤BCPは、緊急事態が発生しても事業が継続・普及できることを目指すものです。企業間ネットワークの構築は事業の継続・復旧に必要な要素ですが、これを重視してネットワーク構築だけを目指すものではありません

答えは「エ」です。

診断士試験あるあるだと思うのですが、「カフェテリアプラン」とか「事業インパクト分析(BIA)」とか参考書に出てこないですよね。こればっかりはどうしようもないのですが、本番でも絶対に知らない単語は出てきます。

このような問題への個人的な対策として、「仮説」を立てて答えを導き出せると得点率がぐっと上がります。今回の問題だったら「イ」と「オ」が間違っていることは記事の内容で判断できたかと思います。そして残りの「ア」「ウ」「エ」ですが、「ウ」と「エ」を比較したときに、「BCPとコンティンジェンシープランのどちらかは事業インパクト分析を行ってから計画を立てるんじゃないか?」と仮説を立てることができます。この時点で「ア」は切りましょう。

このように考えると、「事業インパクト分析」を始めて聞いたとしても50%で正解できるんです。初めて見る言葉が出てくるのはしょうがないです。他の受験生の皆さんもわからないので安心して大丈夫です。そんな時こそ焦ってしまうのではなく、冷静に選択肢を分析して仮説を立てることで少しでも正解に近づき、他の受験生と差をつけるチャンスだと捉えてしまう姿勢が得点に表れてくると思います。

まとめ

当記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。今回は、一次試験「企業経営理論」の内容であるBCP(事業継続計画)とクライシスマネジメントの違いについて解説させていただきました。

お話しした通り、BCP(事業継続計画)は、災害や環境変化の多い今の社会の中で、中小企業が確実に生き残っていくための手段として中小企業庁も重要だと考えています。

「企業経営理論」や「中小企業経営・政策」などで出題される可能性は十分に高い内容ですので、これを機にバッチリ理解して、得点源にしてくださいね。

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